今回も演奏するファリャの組曲「Amor Brujo 恋は魔術師」。タイトルについて。魔術師と訳されているタイトルのスペイン語 Brujoは、「魔術、呪術、呪詛」などおどろおどろしいことにも用いられる。私だったら、「呪いの恋」にするかしら、語呂もイマイチ、訳は難しい。
ここで登場する幽霊は、人を殺し地獄に連れていく悪い霊。12時の鐘とともに現れて、女主人公Candelasを恐怖と絶望に陥れる。演奏会では、この曲の持つ魔法にかけられたような気怠い雰囲気と、恋と恨みの悲しさを表現できたらと思う。
さて、パリから帰ったファリャが暮らしたグラナダのカルメン(女の人の名前だが、小別荘の意味もある)。アルハンブラ宮殿のすぐ隣に建つこの家は、真っ白な壁と鎧戸の薄い青が眩しい。この青は、彼の生まれ故郷カディスでは魔除けの力があるとされていて、ファリャは特別に取り寄せて塗らせたとか、こだわりのディテールなのですね。
写真はこちらpd2mbBBB_9818–
モンポウ。不思議な名前。条件反射でパリ時代に通ったオルセー美術館のポンポンの可愛いクマを思い出す。モンポウの生まれたバルセロナのあるカタルーニャ地方の言葉「カタラン」はホワーンとしている。リズムも発音もはっきりパキパキした私の慣れ親しんだスペイン語と、まるで違う。マドリードから車で演奏旅行をした時のこと。スペイン中央部の高原や荒れた平原を抜けて、明るい地中海をバックに輝くバルセロナに着くと狐につままれたような気分になる。エルグレコやゴヤではなく、ミロやダリの絵が似合う。まるでコインの裏と表だ。
モンポウの楽譜の書き方は独特だ。これは私の考えだけれど、クラシックな作りの音楽は、クライマックスにフォルテ(強く)『f』の記号がくる。もっと強いフォルテシモもある。だが、モンポウの場合はディミニエンド(だんだん弱く)、次ぐエスプレッシーヴォ(表情豊かに)『Dim. Espressivo』の場所が、曲のヘソ、山だ。これは大変なことだ。
響きも独特。まるで白昼夢のようだ。彼の特徴の一つとして、鐘の音がある。ヨーロッパでは教会の鐘の音が生活のリズムを作る。天から降る音をピアノで鳴らす。
モンポウは天の声=静寂の中の音楽を、この世で鳴らしたかったのだろうか。そしてDim ,Espressivoはスペイン市民戦争や第二次世界大戦、独裁政権の中で生きた芸術家の、静かな抵抗と怒り、悲しみなのだろうか。
この秋演奏するグラナドスの組曲ゴイエスカス(演奏会では一部抜粋)は、カタルーニャ生まれのグラナドスの最高傑作と言われる名作です。ゴヤ風(goyescas)というタイトルの所以は、スペインの天才画家Goyaの絵画シリーズ「恋する若者たち」の雰囲気を音楽で表したものだからだそうです。
華やかな宮廷画家であったGoya。当時宮廷では、若者スタイル(マホ、マハ)が流行していて、そんな衣装に身を包んだ貴族たちの恋愛模様はこんな風だったのかしら、と我々の想像力をかきたてます。
スペインにはディズニーのシンデレラ城のモデルになったと言われるお城から、アラブ風の要塞城まで、たくさんの素敵なお城があります。今日はローマ時代の水道橋で有名なセゴビアという街にある、ラ・グランハ・デ・サン・イルデフォンソ宮殿をご紹介します。
フェリペ5世によって建てられた広大な美しい宮殿と庭園です。行った日は雨が降っていましたがそれもまた風情があってとても素敵です。ここでどんな素敵な恋物語があったのかな、と思うとなんだか嬉しいですね。コンサートではそんな雰囲気を味わっていただきたいと思います。
9、10月のプログラムでは、ファリャの若い時代の代表曲、ノクターンとうたを最初に演奏します。初期の作品というのに、まるでショパンの最晩年の悲しみを偲ばせる不思議な美しさ、淡白さが、胸を打ちます。こういうスペインの叙情もぜひご紹介したいと思い選曲しました。
ファリャは若い時に生家の没落(スペインの国としての衰退の煽りを受けたというべきか)により非常な苦労をしたそうです。初恋もそれが原因で破れ、以来恋愛は伝えられていません。内面の夢や官能を、音楽の中にだけ求めた人生だったのかもしれません。
ベッケルも死と私生活の不幸に覆われた人生でした。ベッケルの75番の詩にファリャが作曲した歌曲は:
「まだ見開かれたままのその目を
閉じてやった、
その顔を
白い布で覆った、
そしてある者たちはすすり泣きながら、
他の者たちは押し黙り、
悲しい寝室から
一同は外へ出た。・・・・」(引用:ベッケル詩集 翻訳 山田眞史)
その前の74番の詩も一度読んだら忘れられない。
「・・・・
夜となり、そして忘却の両腕のなかへと
僕はその奥深い懐の中へ石のように落ちていった。
眠り、そしてめざめた時、僕は声を震わせた。「誰か
僕が愛した人が死んでしまったのだ!」 (引用同上)
日本の皆様に、スペインが誇る20世紀の大作曲家マヌエル・デ・ファリャ(1876-1946)の人生、作品、演奏会の情報など発信するため、日本ファリャの友の会を誕生させました。遺族で、ファリャ資料財団の会長のエレナ・ガルシアデパレーデス・ファリャ氏が命名してくださいました。こちらからどうぞ
「セビーリャの産んだ二人の天才」について皆さんご存知ですか。一人は画家の中の画家と呼ばれるベラスケス。もう一人は詩人のベッケルです。
セルバンテス(ドンキホーテ)に次ぐ不動の第二位の人気を誇ります。愛、絶望、孤独、死について歌う彼の作品は、読むものの心に寄り添います。個人的には、愛がテーマの詩はちょっと気恥ずかしいけれど、孤独や死の歌は何度読んでも深い感動に包んでくれて大好きです。
スペイン語のもつ、パッションと厳かさ、暖かさ、鋭さに心を奪われます。南米まで続くスペイン語文学の始祖たちはスペインの豊かな古典なんですね。
スペインの都市の中でもとりわけスノッブな街セビーリャの豊かな家庭に生まれ、早くに両親を亡くし、病気など苦労が絶え間なかった人生だったようです。首都マドリードに出て上流のサロンに出入りしてこれからもっと活躍するであろう時に、若くして亡くなりました。
シューベルトのように(外見も個性もだいぶ違ったようですが)友人達に愛されたようで、亡くなってすぐに彼らによって詩集が出版され、今もベッケルに関する書籍は大変多いのです。
その詩は後に、ファリャやアルベニス、モンポウなどスペインの作曲家たちが音楽をつけて、美しい歌曲になっています。ベッケル自身も音楽を愛し、ピアノ演奏を快くしたそうです。兄ベッケルの絵を見ながら詩を読むと、当時の雰囲気や彼らの情熱が、走馬灯のように花開きます(そんな表現は日本語としてまちがっているかもしれません!)
9月と10月の演奏会では、そんなロマンチックなスペインの情緒を味わっていただける曲を演奏します。ファリャの「ノクターン」、そして「うた」です!どうぞお楽しみに。
来シーズンの演奏会ではスペインバスク地方に生まれた作曲家グリーディ、フランスバスク地方に生まれた作曲家ラヴェルの曲も聞いていただく予定です。ラヴェルはあの有名な「亡き王女のためのパヴァーヌ」を演奏します。
有名な曲をきちんと演奏するのは難しいものです。耳の先入観を追放するのは大変です。その上この曲は特に、「おしゃれで機知に富んだフランス人ラヴェル」というコマーシャルマーケティングの印象が強すぎませんか?カリカチュア感が。。。
ずっと避けていたこの曲をなぜ聞いて欲しいと思ったか。
彼の生地サンジャンドリューズ(スペインと国境の街)を訪れて、「ラヴェルの音楽の率直で自然な美しさ!」に閃いたのです。そしてスペイン側バスク出身のグリーディの作品と合わせて聞いてもらうことによって、二人のバスク人に共通する空気感が、より確かな答えとなると思うのです。
亡き王女のためのパヴァーヌ。題名にはほとんど意味がない、音の響きでタイトルをつけたそうです。センスが良いなあ。で、ご存知でしたか?太陽王ルイ14世が花嫁となるスペイン王女を待ち、豪華な結婚式を挙げたのは、他でもないここ、サンジャンドリューズの美しい教会であったこと。
教会内部はまるで木製の大きな船のよう。不思議な、この世のものとは思えない美しさとあたたかさで満ちていました。大西洋に面していて、街のどこにいても、なだらかな緑の丘の上にいても、どんな時も湿気と匂いで、海の存在がある街であったこと。若々しい歌、中世やスペインへの憧れ。そんな雰囲気を感じる演奏をしたいと思います。
本日発売開始 西澤安澄スペインピアノリサイタル(東京)
日時:9月24日(土)13時半開演
原宿駅徒歩2分 木肌とベーゼンドルファーの響きのアコスタディオにて、オールスペインのピアノリサイタル開催。限定60名。
西澤安澄が原点に帰り、スペインの音楽と真剣勝負を繰り広げます。
バスク、カタルーニャ、カスティーリャ、アンダルシア。さまざまな地方の魅力を音楽で味わってください。懐かしいあの曲から、知られざる作品まで。きっと、今まで知らなかった新たなスペインの魅力の虜になることでしょう。トーク付きコンサート。休憩あり。終演予定15時半頃。
問い合わせ 予約は
▶︎カンフェティ チケットセンター
web予約 https://www.confetti-web.com/azuminishizawa2
電話予約 0120-240-540 通話料無料・受付時間平日10時~18時