モンポウの音楽 戦争のかなしみ

モンポウ。不思議な名前。条件反射でパリ時代に通ったオルセー美術館のポンポンの可愛いクマを思い出す。モンポウの生まれたバルセロナのあるカタルーニャ地方の言葉「カタラン」はホワーンとしている。リズムも発音もはっきりパキパキした私の慣れ親しんだスペイン語と、まるで違う。マドリードから車で演奏旅行をした時のこと。スペイン中央部の高原や荒れた平原を抜けて、明るい地中海をバックに輝くバルセロナに着くと狐につままれたような気分になる。エルグレコやゴヤではなく、ミロやダリの絵が似合う。まるでコインの裏と表だ。

モンポウの楽譜の書き方は独特だ。これは私の考えだけれど、クラシックな作りの音楽は、クライマックスにフォルテ(強く)『f』の記号がくる。もっと強いフォルテシモもある。だが、モンポウの場合はディミニエンド(だんだん弱く)、次ぐエスプレッシーヴォ(表情豊かに)『Dim.  Espressivo』の場所が、曲のヘソ、山だ。これは大変なことだ。

響きも独特。まるで白昼夢のようだ。彼の特徴の一つとして、鐘の音がある。ヨーロッパでは教会の鐘の音が生活のリズムを作る。天から降る音をピアノで鳴らす。

モンポウは天の声=静寂の中の音楽を、この世で鳴らしたかったのだろうか。そしてDim ,Espressivoはスペイン市民戦争や第二次世界大戦、独裁政権の中で生きた芸術家の、静かな抵抗と怒り、悲しみなのだろうか。

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