ベッケルとファリャ
9、10月のプログラムでは、ファリャの若い時代の代表曲、ノクターンとうたを最初に演奏します。初期の作品というのに、まるでショパンの最晩年の悲しみを偲ばせる不思議な美しさ、淡白さが、胸を打ちます。こういうスペインの叙情もぜひご紹介したいと思い選曲しました。
ファリャは若い時に生家の没落(スペインの国としての衰退の煽りを受けたというべきか)により非常な苦労をしたそうです。初恋もそれが原因で破れ、以来恋愛は伝えられていません。内面の夢や官能を、音楽の中にだけ求めた人生だったのかもしれません。
ベッケルも死と私生活の不幸に覆われた人生でした。ベッケルの75番の詩にファリャが作曲した歌曲は:
「まだ見開かれたままのその目を
閉じてやった、
その顔を
白い布で覆った、
そしてある者たちはすすり泣きながら、
他の者たちは押し黙り、
悲しい寝室から
一同は外へ出た。・・・・」(引用:ベッケル詩集 翻訳 山田眞史)
その前の74番の詩も一度読んだら忘れられない。
「・・・・
夜となり、そして忘却の両腕のなかへと
僕はその奥深い懐の中へ石のように落ちていった。
眠り、そしてめざめた時、僕は声を震わせた。「誰か
僕が愛した人が死んでしまったのだ!」 (引用同上)